モジュール生産方式の構築 その15|リードタイム短縮と在庫の役割

モジュール生産方式構築の考え方について、専門的且つ分かりやすい解説を提供するコラム。全16回でお届けします。

5.マス・カスタム生産管理
5-2 リードタイム短縮と在庫の役割

(1) 投機(見込生産)と延期(受注生産)

マス・カスタマイゼ―ションは下記5つのいずれの段階から生産を開始するかを判断する。

  • 「完全標準化」・・・・見込生産・在庫販売
  • 「セグメント標準化」・流通段階のカスタム化
  • 「カスタム標準化」・・受注組立
  • 「テーラーメイドカスタム化」・・受注生産
  • 「完全カスタム化」・・個別受注生産

標準化された製品を大量生産する行動と完全なカスタム製品を個別受注して供給する行動の両極の概念を5段階に分類すると、図表29に示すようになる。

図表29

「完全カスタム化」から出発すると、デジタル・エンジニアリングの支援のウエイトが高くなるが、カスタマイゼ―ションに近づく。

反対に「完全標準化」を採用するとマス・プロダクションによる規模の経済性を追求できる。
そこには、投機の原理と延期の原理がある。

投機の原理は、需要予測などによってできるだけ早く計画生産し、まとめて納品することである。メーカーにとって規模の経済性を追求でき、今日でもさかんに行われている。

延期の原理は、実需が把握されるまで、できるだけ生産を引き延ばし、実需があるたびに納品を行うことである。このためには、消費者ニーズに合った生産流通体制を確立する必要がある。

メーカーは投機の原理、販社は延期の原理で販売戦略を立てていたが、今日ではカスタマイゼ―ションの要請からメーカーでも延期の原理での対応が求められている。

投機戦略と延期戦略は対極的な関係にあり、どちらか一方の戦略では経営課題を同時に解決できない。このため、多くの製造業では,部品や中間製品などは予測に基づいてあらかじめ生産を行い、最終製品は顧客の注文を受けてから中間在庫を用いて対応するといった見込生産と受注生産の中間的なやり方で対応している。

つまり、延期と投機を融合したやり方である。

その分岐点であるデカップリング・ポイント(Decoupling Point)は、カスタマイゼーションに要する時間が顧客からの要求納期に等しいか短くなる在庫ポイントである。

(2) プルとプッシュ生産計画

デカップリング・ポイントを境に、計画主導の計画系業務と、受注主導の実行系業務が切り替わり「全業務プロセスのうち2つの業務はどのプロセスで交わるのか」が明確になる。

一般に、納品から中間在庫までの受注主導の実行系業務はプル型生産管理を、中間在庫から資材調達系での計画主導の計画系業務はプッシュ型生産管理を採用する。

プル型の代表はカンバン方式での受注生産、プッシュ型の代表はMRP方式での見込み生産である。(MRPはMateria1 Requirements P1anning から Manufacturing Resource Planning に言語が変化していることに注意)

しかし、ITの発展は短サイクルでの計画を可能にしている。そこで、前者のプル型のカンバン方式に替わって受注都度リアルタイムにMRPを回して所要量展開を行い、そして、後者のプッシュ型のMRP方式に替わって定量発注で在庫を補充を行う発注点管理を採用するようになった。発注点は都度変更計算する変動発注点である。

図表30は、今日のマス・カスタム生産管理に使われる手法で、この不定期・不定量発注が生産管理システムの基本に位置付けられる。

図表30

(3) 完全なプル型生産ができない

工場は、いつでも好きなときに、好きなものを作れる無尽蔵な設備能力を持つことはできない。

いかに少ない設備で生産するかを考えた時、安定した受注があり、仕事量が平準化していることが望ましい。
しかし、工場が望むほど安定した注文が来ない。

それでも、注文に合せて柔軟に短納期で顧客に提供することを優先するのであれば、負荷変動を吸収するバッファを何に求めるかである。

マス・カスタマイゼーションは中間財にその役割を求めた。
そのため、プル型とプッシュ型の組み合わせはマス・カスタマイゼ―ションにとっては有効な生産管理手段である。

受注にはプル型で対応するが、全工程をプル型で計画せず、制約条件を考慮したバッファまでは計画主導のプッシュ型で事前準備しておく。

図表31は先に示したオフィス家具の工場でスクリーンの製品に適用されたデカプリングポイント例である。
板金・防錆塗装後の中間在庫がそれである。

この場合、MRPの回し方や製造指図のきり方も、受注に基づく業務のときと自ずと違いが出てくる。

MRPによって製造指図を出すが、設備やラインの負荷状況を考慮した日程計画とすることによって、限りある能力を最大限に活かし、納期に間に合わせる生産順序計画を作成することができる。

図表31

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