工作機械関連技術者会議 企画副委員長 インタビュー1

2021工作機械関連技術者会議 企画副委員長の東京電機大学 工学部 機械工学科 教授の松村 隆 様に工作機械業界の動向、今回の本会議の聴き所をお伺いしました。日本能率協会の勝田・高士がインタビューいたします(以下 敬称略、役職当時)

東京電機大学 松村教授 インタビューその1 /パンデミックで工作機械業界のデジタル化は進んだのか? 

(高士)
松村先生の現在の研究内容、専門分野について教えてください。

(松村)
切削加工を中心とした機械加工に関する研究をしていますが、その中で主に切削のシミュレーションを開発してきました。微細加工に関しては、微小径エンドミルや金型による微細加工と表面機能の制御について研究をしています。

切削シミュレーションは自分が東京工業大学で助手として働いていた頃から30年以上にわたり研究を進めてきました。また、2000年になって、開発したシミュレーションソフトウェアを企業の皆さんに配布してお使い頂きました。

微細加工とのきっかけは、エンドミルでガラスを切削する研究を始めた頃からでした。ガラスは一度に大きく切り込むと割れてしまいますが、切込みを制御することによって切りくずが出て割らずに削ることができます。この技術は検査基板のマイクロ流路、特に流路の修正や追加工に応用されました。その後、この分野の関連企業からご要望もあり、サファイアの切削にも手掛けてきました。

また、私がマサチューセッツ工科大学にいるときに、ウォータジェットによる微細加工の研究を立ち上げ、その成果を論文にして発表しましたが、この論文がきっかけで、今でも海外からはウォータジェットに関する論文の査読依頼が多くあります。

さらに、微細加工の応用として表面に微細な凹凸を加工し、表面と接触する物質の物理的・化学的性質を制御する機能表面の製造技術についても研究してきました。

切削のシミュレーションと、硬脆材を中心とした微細加工、そして機能表面加工、これらが私の研究における3本の柱となっています。

(高士)
今般のパンデミックで、工作機械業界のデジタル化、自動化がさらに進んだと言われていますが、先生のお考えはいかがですか?

(松村)
コロナだからというわけではなく、本来、製造業では試作を減らして開発期間を短縮させるため、デジタル化やシミュレーションには強い興味を持っておられたようです。切削に関していえば、2000年になってアメリカの Third Wave Systems社から切削専用のシミュレーションソフトが市販されると、それを機に業界のデジタル化への意識はさらに高まりました。

また、その頃から、私が開発したシミュレーションソフトも企業から使用したいとの依頼を頂きました。したがって、コロナ禍によって、オンライン化、デジタル化が飛躍的に進んだという印象は強くありません。

(高士)
一方、AIもデジタル化には欠かせない技術の一つですよね。

(松村)
昨今のAIの進歩には目覚ましいものがありますが、生産技術や加工の現場で実際にAIを導入することはチェスや将棋や囲碁のような対象と違い、加工現象には不確定なものが多いので、その実用化はまだ時間が必要と思います。しかし、そうした中でも、製造業ではAIを積極的に導入しようとしています。

AIが期待されている応用の一つには監視技術がありますが、現在の関心は異常の検出から予知に移っているように思います。AIが機械学習によって正常時の状態を認識し、状態信号の変化とともに異常を予知できれば、生産ライン等で現場に喜ばれるものになると思います。

(勝田)
工作機械業界の市場回復にコロナの影響はあるのか、先生の見解をお聞かせください。

(松村)
社会全般としてコロナ禍が経済に及ぼす影響は大きいものと思います。また、このような中でオンライン技術が飛躍的に伸びた業界もあります。工作機械業界に関しても、昨年、新型コロナウィルスがひろまり始めた頃はその影響があったと思いますが、現在のように製造業が動いている中では、市場回復に対するコロナ禍の影響はそれほど大きくはないように思います。

むしろ、無線を中心とするオンラインの情報化技術が、今後、工作機械業界にどのように取り込まれていくのかに注目したところです。この技術は、日本だけでなく、他の工業国でもいろいろと取り組まれていると思いますが、斬新な活用技術が市場における競争力にもなるでしょう。

(勝田)
その技術・情報基盤の発達に大切なものはなんでしょうか?

(松村)
データベースにしてもAIにおける機械学習にしても、取り込んで管理するデータの品質が情報技術の導入における成否に影響します。すなわち、品質の高いデータをいかに取り込むかが重要です。

現在のように無線の技術があれば、逐次、データを取り込むことができますが、外乱の多い加工現場からのデータには、類似作業でも整理できないものまで取り込むこともあるでしょう。これによって矛盾したデータが増えると、使えない情報リソースになってしまいます。

現在、無線によるデータ収集は大規模の情報データベースに大きく寄与していますが、一方では、「品質の高いデータの取り込み」をどのようにするのが課題となっています。

(勝田)
それを解決する方策はありますか?

(松村)
実際に取り込まれたデータを事例として保存、または、AIにおける機械学習用で参照とする前に、物理的な背景に基づいて検定をする必要があります。すなわち、物理モデルに基づいた「モデリングフィルタ」が必要となります。

これまでの監視技術では、フィルタや様々な手法による変換の信号処理を通じて、状態の特長を抽出して把握されてきました。これに焚いて、モデリングフィルタはさらに上位的な位置づけで、データの取り込みの可否に関するフィルタです。このフィルタには単純に判断できるものもありますが、シミュレーションを併用するものもあります。

残念なことに、加工の分野ではすべての現象をシミュレーションで判断できないため、こちらについても課題はあります。もちろん、AIによって我々の知らないことを発見的に見出してくれるようになれば、AIに対する期待も大きくなります。そのようになるには、もう少し時間がかかるかもしれませんね。

それぞれの現場において現在のAI技術は、導入の段階でいろいろと模索しているところがありますが、今後、使い道によってはもっと期待できると思います。製造におけるデジタル化において、AIによってどこまで新しい発見が得られるのか、物理ベースのシミュレーションがさらに高速で精緻化されていくのか、は今後も注目すべきですね。

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