2022計装制御技術会議 東京都立大学 増田教授(本会議委員長)インタビュー

2022計装制御技術会議 企画委員長の東京都立大学 機械システム工学科 教授 増田 士朗 様に業界動向や今回の本会議の聴き所をお伺いしました。日本能率協会の高士がインタビューいたします(以下 敬称略、役職当時)

高士
増田先生の現在の研究内容について教えてください。

増田
システム制御工学の分野、数学モデルに基づいた制御系設計理論の構築・体系化について研究しています。1960年代から連綿と研究が続く、体系的にしっかりとした軸を持つ、今なお若い世代が研究に参入している分野です。

一方、理論の構築だけではどうしても実際とのギャップが生じます。そのギャップを埋める観点から、数学モデルを動作させながら制御を実現する適応制御を研究していました。特に今は、実際にシステムを動かすことによって得られる情報・データを制御系設計に活用する「データ駆動制御」を研究対象としています。

化学プラントの現場では,制御を専門とする技術者は、それほど多く配置されていないので、一つの工場に数百・数千あるといわれるPID制御器も現状維持のまま未調整で放置されているのが現状です。そのような中で、シンプルに制御器調整する方法があれば、少ない手数で性能改善に貢献できます。

その一つの手がかりが「データ駆動制御」です。工場内に蓄積されたデータを活用し、制御の専門家でなくても簡易的にPIDゲイン調整や改善ができる「データ駆動調整のアルゴリズム開発」が研究のターゲットです。

PIDゲイン調整を簡易的に実現する手法はユーザ企業で独自開発されたものやベンダー企業が商品化しているものがありますが、大学の研究から開発されたツールは、ユーザ企業・ベンダー企業に関わらず共有のプラットフォームになる可能性がありますので、このような取り組みは意義があると思います。

したがって、我々の取り組みの成果を実際に活用する企業を増やし、より多くの現場で制御パラメータを調整した機器を実施してもらい改善につなげることが目標です。

高士
化学プラントに制御系の専門家が少ない理由はどこにあるとお考えですか?

増田
制御系に関わる仕事は設備の保全・保守といった業務に分類されるケースがあり、制御ゲイン調整以外の仕事もこなす必要があります。そのようなこともあり、制御器調整に関する重要性について皆さん認識はされていても、なかなか現場で人員を充てられないことも一つにあるでしょう。単独の工場だけで解決するというより、オープンイノベーション、オールジャパンで世界と戦っていくことが大切です。

高士
当会議も、その推進支援に存在意義があると考えています。

増田
こうした会議を通じて、大学と公的機関、そして産業界が連携する必要があります。様々なワークショップや勉強会から共同研究を促進し、その開発成果や情報を共有していく文化が重要です。

高士
現在の計装制御技術者が抱える課題はどのあたりにあるとお感じになりますか?

増田
次々と新しい技術が生まれ、その中でどれが一番有効なのか。他社の導入実績から自社も導入しようという圧力が当然ある中で、新技術の導入メリットを上司に説明する方法が難しいと聞きます。

新しい技術の中から本当に役立つものを見つけ出す難しさ。その技術のメリット、コスト、リスクなどを定量的に評価する手順も整っていません。また、その技術を習得するためにどれくらいの教育・習熟期間が必要なのか。あまりにも多くの新技術が一気に押し寄せているため、混乱している部分があると思います。

高士
整理している間にまた次の技術が生まれてくるということですね。

増田
そのとおりです。時代の新しい変化に乗り遅れないことも重要ですが、本当に利用価値のある技術を見極めることが求められるのです。本来その会社が持つ固有技術と新しいデジタル技術をどう融合させていくのが正しいやり方なのか。そこを皆さんすごく悩まれているのではないでしょうか。

高士
その「見極める力」を育てていくにはどうすればよいとお考えでしょうか?

増田
各社の固有技術や業界内の動向などは、それぞれ異なるので、各社・各業界で従来の方法にとらわれない独自の方法を創り出していくことを期待しています。そのとき、デジタル技術の本質的な価値を見極めることが必要と思います。

あえてデジタル技術を導入しなくても、従来の方法を少し工夫するだけで対応できる場合もあれば、デジタル技術を導入することで従来の方法を根本的に変革しないといけない場合もあると思います。どちらの場合においても、新しい技術の本質を見極めることが重要になると思います。言うは易く行うは難しですが、大切なポイントだと思います。

高士
コロナ禍で環境が大きく変わる中、計装制御技術者が置かれる状況にはどのような変化があったと思われますか?

増田
リモートでの仕事を真剣に考えなくてはならない。ここが一番の大きな変化だと思います。リモートのデメリットが明らかにある中、そうせざるを得ないのが現状です。こうした状況でいかにそのデメリットを抑えていくのか。そこから逆にプラスの側面、メリットを引き出すことができるのか。そこがキーになるでしょう。

高士
在宅勤務を余儀なくされた中、この変化は顕著ですよね。

増田
制御技術は業務の性質上、リモートに対応しやすかったこともありますが、長引くコロナ禍でかなりリモートワークも浸透しました。やる気になればできることが証明されたのではないでしょうか。

高士
プラントの立ち上げなど、どうしても現場での対応が必要だった案件も、将来的にはリモートで行うことも考えられるでしょうか?

増田
制御系はオペレーションルームでの業務が主体で、フィールドにいる人は少ないでしょう。そう考えると、現状をさらに進化させ、オペレーションルームではなく遠隔での作業も十分考えられると思います。

高士
こうした変化の時代にあって、計装制御技術業界の10年先を見据えた展望について先生のご意見をお聞かせください。

増田
日本は「すり合わせ」の技術が優れていると言われます。単なる組み立てだけなら製造機械があればできてしまいます。量産や生産精度の向上を図るうえで、人の手が必要な部分も少なくなります。しかし、人が見てようやく可能となるような細かな、微妙な管理技術。

この点において、日本人はボトムアップで丁寧に仕事をします。ここが最後の強みとして残っていくと考えています。これがグローバル競争の中でも力を発揮していくでしょう。他国にはマネできない部分が技術として残っていくと思います。

高士
まさに日本の強みはそこにあるのですね。

増田
一方で、その個別対応が強すぎることから、システム化技術、戦略を練ったり標準化したりする技術は不得手な傾向にあります。逆にそれが得意な欧米等に先にスタンダードを取られ負けてしまうことも往々にしてあります。

10年後に向けて、日本人のすり合わせ技術を活かしながら、戦略的なシステム化技術をうまく融合していくことが重要です。これができれば、グローバル競争に勝てる状況がつくれるでしょう。

高士
将来に向けた人材育成も大切になってきますね。

増田
今の若い世代にはその可能性が十分あると考えています。日本人の良さを引き継ぎながら、システム化技術の重要性も分かり始めています。グローバルな感覚も確実に持っています。日本の技術は停滞していると言われる中でも、将来的には明るい光があると思います。日本の良さを残しながらグローバル化に対応する状況は着実に進んでいると言えるでしょう。

高士
若い技術者が育ってきているということでしょうか?

増田
育つというより、環境が進展しているというべきでしょうか。研究の世界でも、海外の標準的な方法を取ることが常識になっています。国内の学会発表一つとっても、流暢な英語で行われるなどその変化は顕著です。

このように今はグローバル化が浸透した環境にあると実感しています。一方、日本人的な発想もきちんと引き継がれています。これからの世代は、よりグローバルな感覚を持っていると期待しています。

高士
2022計装制御技術会議では「計装制御技術の今、技術の変革」をメインテーマに掲げています。本会議への期待、見どころや魅力を教えてください。

増田
デジタル技術、IoT、DXなどが非常に注目される中、具体的にどのような技術が目の前の課題解決に有効なのか。日進月歩の状況において悩まれている方が多いと思います。今回の会議には、具体的な事例紹介や「今このようなツールが活用できる」「こうした問題解決が図られている」といった一歩先の取り組みを紹介するプログラムが多く含まれています。今後さらに成熟させていきたいデジタル技術を考えたときの大きな手がかりになるでしょう。是非ご参加いただき、自社におけるDX・AI技術導入の参考にしていただければと思います。

高士
自社の課題を解決する具体的な糸口がつかめるということですね。

増田
計装関係の技術は一社ですべてを解決するというより、会社の枠を超えた連携により一層前に進む可能性が増してきます。こうした場を通じて、日本全体で解決できる方策を模索することが期待されます。

高士
当会議が共創の一助となることを私も期待しています。

増田
聴講者の皆さんがパネルディスカッションにも積極的に参画してもらい、パネラーの意見交換の中から共通の課題や試み、オールジャパンで取り組めるような方向性を見つけていってもらえるとなおいいですね。

高士
先生には、セッション3「AI、デジタルトランスフォーメーション時代と今後の展開」のコーディネーターもお務めいただきますが、当セッションの見どころ・聴きどころや注目点もお聞かせいただけますか?

増田
セッション1では「未来のデジタル技術の将来像」について。そしてセッション2、3では「現状、もしくは現状から一歩先の技術」について議論されます。その中でもセッション2は「リモート」に焦点を絞り、セッション3では「ツール側」に光を当て展開されます。セッション3には、具体的なDXのツール活用やAI技術の観点から、いかにして先へ進めていくかについて提供するプログラムが多く含まれます。

高士
具体的な内容もお話いただけますか?

増田
基調講演でDX技術の背景や現状の技術動向を紹介していただきます。また、新進気鋭のAIの理論の研究者にAI技術の動向やAIに関わる理論の今後の方向性について総論的にお話いただきます。

デジタルツインのツール技術や、データの異常検知に関する事例紹介、サイバーセキュリティの具体的な対処方法も紹介されます。現状のDX・AI技術の全体像を振り返りながら、これから取り入れるべきツールや技術も具体的に紹介しています。新しい一歩先の技術を身につけるための情報を収集し、その手がかりを得る良い機会になると思います。

高士
最後に、どのような方に当会議にご参加いただきたいとお考えでしょうか?

増田
若手と中堅世代の方々ですね。

若手とは、入社して3年、5年など一通り自社の技術を学び、これから新たな自分なりの技術を身につけていこうという段階にある方々です。社内の固有技術だけではない、広く学ぶきっかけが得られます。

プログラムにはアカデミックな内容も含まれています。学生時代に学んだことが応用技術の中でも活かせることを知り、会社内だけでは思いつかなかった発想を得られる可能性もあります。勉強した内容が頭に残っている若い人たちが聴講すると、それらが現場で役立つものなのだと気づいていただけるでしょう。若い世代の将来に大いに資する内容になっていると思います。

同時に中堅世代、上司にDXやIoT技術を導入するメリットを説明したり、リスク管理の方法を説いたりする立場にある方にも是非参加いただきたいですね。その具体的な効果やリスクを知る良い機会だと思います。

中堅以上に必要な実践的な対応技術、そして若手に対してはアカデミックな部分も含め広く学んでいただける場となるでしょう。多くの方々のご参加を期待しています。

高士
貴重なお話をありがとうございました。

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