2022計装制御技術会議 福岡大学 野田教授(本会議副委員長)インタビュー

2022計装制御技術会議 企画副委員長の福岡大学 工学部 化学システム工学科 教授  野田 賢 様に業界動向や今回の本会議の聴き所をお伺いしました。日本能率協会の高士がインタビューいたします(以下 敬称略、役職当時)

高士
野田先生の現在の研究内容について教えてください。

野田
化学工学分野、特に「プロセスシステム工学分野」を専門に研究を続けてきました。プロセスシステム工学分野とは、化学プラントに代表される複雑かつ大規模なシステムの設計、開発,制御、操作、管理からなるライフサイクルの各段階において、コンピュータを最大限利用して合理的な意思決定を行うためのシステマティックな方法論を研究する分野です。

約25年前、私が大学院の研究室に入った頃は、研究室にインターネットの整備が進んでいる状況で、コンピュータやネットワークを活用した研究が注目されていました。私自身は、コンピュータを使ったバッチ蒸留プロセスの最適設計・運転に関する研究に取り組んでいました。

高士
およそ四半世紀、この分野の研究に従事されてきたのですね。

野田
25年前に研究していたことが今回の計装制御技術会議のテーマであるAI技術やIoT技術につながっているのだなと思うと感慨深いものがあります。

高士
今は特にどの分野にフォーカスしていらっしゃるのですか?

野田
現在、取り組んでいるテーマは「アラームマネジメント分野」です。特に、ヒューマンとシステムの関わりに注目して研究を進めています。

高士
ヒューマンとシステムの関わり、非常に興味深いテーマですね。

野田
現在、化学プラントの監視制御システムは非常に高度化し、多くのアラームを容易に設定できるようになりました。アラームの役割は、プラントでの異常発生時にオペレーターにどのような異常が発生したかをいち早く通知し、プラントを正常に戻すようなアクションを求めることです。しかし、不適切なアラームシステムの設計により、プラント異常発生時に「アラームの洪水」とよばれる不要なアラームが多数発報する状況が頻発するようになりました。多数の不要なアラームはオペレーターの誤診断を招き、プラント事故につながるケースがここ10年ほど非常に多く見られるようになりました。

高士
オペレーターがアラーム対応に追われてしまい、それがミスオペレーションにつながってしまう恐れがあるのですね。

野田
人間の情報処理能力には限界があります。人間の能力に合わせて、いつどのようにアラームを出すか、見せるかをきちんと考えてアラームシステムを設計しなければ安全は保たれません。こうした人間とアラームシステムの関わりに注目しながら、どのようにアラームシステムを設計したらよいのかを研究しています。最近は、プラントのオペレーションデータから、不適切なアラームを抽出するデータ解析手法の研究にも取り組んでいます。

高士
先生が計装制御技術会議に企画委員として参画された経緯を教えてください。

野田
前委員長の山下先生からお声をかけいただいたことがきっかけです。

高士
現在の計装制御技術者が抱える課題はどのあたりにあるとお感じになりますか?

野田
昨今、AIやIoTといったデジタル技術が生産現場に次々と入ってきています。現場の技術者は、そのあまりの変化の速さからキャッチアップに苦労されているのではないのでしょうか。COVID-19は、その変化を益々加速させました。現場の技術と最先端の技術の間に非常に大きなギャップが開きつつあり、技術者はそこに戸惑いを感じられていると思います。

高士
日進月歩の技術に対応することは本当に大変なことだと拝察します。

野田
プラントは基本的に一品ものです。AIやIoTといったデジタル技術をプラントに導入するためには、プラント毎に現場の技術者によるモディファイが必要です。それが、技術者に苦労をもたらしている一番の要因だと思います。

高士
そのような激しい変化の時代にある今、日本のプラントメーカーがグローバル競争で勝ち組となるための10年先を見据えた展望について、今後のあるべき姿や方向性も含め先生の見解をお聞かせください。

野田
日本の化学メーカーの中には、最先端の素材技術を持つ会社が多くあります。こうした企業は今後もその強みを活かし生き残っていけるでしょう。一方、個々の会社で素材開発もしながら、最先端の生産技術導入までを行うのは大変です。こうした部分については上手く切り離し、最先端の製造技術に特化した企業が出てくることがグローバル競争を生き残っていく道だと考えています。

高士
一社で全て完結するのではなく、それぞれの専門性をさらに高める必要があるのですね。

野田
それが顕著なのは半導体です。半導体を設計する会社と実際に製造する会社は全く別であり、分業されています。どちらもそれぞれ最先端を追い求めていかなければ競争に勝てない状況になっています。同様なことが化学の世界でも起こってくるのではないかと思います。

高士
それをしないとグローバル競争の中では勝ち残れないのではないかということですね。

野田
世界的な視点から見ると、日本の化学メーカーには規模の大きな会社が少ないのが現状です。もちろん小さいままでいった方が良い部分もあるかもしれませんが、もう少し規模を追っても良いのではないかと思います。

高士
独自開発を進め規模の拡大を狙いやすいアセンブリー系の業界とプラント業界の違いはどこにあるとお考えでしょうか?

野田
化学メーカーのプロセスは一品ものが多い点が難しいところだと思います。それぞれの会社がそれぞれのプロセスを持っていて、同じものをつくっているのにも関わらずプロセス、反応工程やルート、分離の考え方が違うなど本当に多種多様です。隣の会社で同じようなものをつくっているのにやっていることは全然違うといった感じです。この点をどうしていくか。ここが組み立て加工と化学メーカーとの違いだと思います。

高士
プラントのオペレーションで競争すべきではないということでしょうか?

野田
そうですね、基本的にそこは利益の出しにくい部分になっているかもしれません。しかし、新しい素材は開発したがそれを自分で製造できなければ意味がありません。そこを自社技術として持つのか、または外部の会社に委ねるのか。今後日本のメーカーはその判断を求められることになるでしょう。

高士
世界で戦っていくための重要な判断を迫られるのですね。

野田
このあたりが、今回の計装制御技術会議の一つのテーマである「リモートオペレーション」につながってくるのではないでしょうか。オペレーションの部分は外部の会社にお任せし、それ以外の部分に集中する。こうした考え方をする会社が今後出てきても不思議はないと思います。

高士
2022計装制御技術会議では「計装制御技術の今、技術の変革」をメインテーマに掲げています。本会議への期待や見どころ・聴きどころを教えてください。

野田
この会議の長い歴史の中で、恐らく今ほど急激な変化が起こっている時期はなかったのではないでしょうか。この変化の中で計装技術に関わる技術者は、会社の中だけを見ていればあと10年20年は大丈夫ということは全くありません。その変化にキャッチアップしていかなければ恐らく5年ももたないでしょう。

高士
より広い視野が求められるわけですね。

野田
では、外部の最新の情報をどのように入手するか。その一つの手段として、このような会議に参加するがあると思います。今回の会議では、AI、IoTといった技術、デジタルトランスフォーメーションにおいて先進的な取り組みをされている企業が、実際の具体的な事例をお話されることになっています。会議の聴講者が「これは自社でも役に立つのでは」といったヒントをお持ち帰りいただければ、この会議は成功と言えるのではないかと思っています。

高士
先生にはセッション2「実用段階に入ったリモート技術とその導入事例」のコーディネーターをご担当いただきます。セッション2の見どころ・聴きどころ、注目ポイントも教えていただけますか?

野田
リモート技術は、特にコロナになってからリモート会議などで注目されています。プラントオペレーションの分野でも遠隔でプラントをオペレーションしようという機運が高まり、例えば海外のプラントを国内から遠隔でオペレーションする会社が次々と出てきています。これは今後も増えていくでしょう。

高士
その傾向がより顕著に見られるのはどの分野でしょうか?

野田
リモートオペレーションの中でも特に進んでいるのは、建設機械の分野です。遠隔で機械を運転し、完全無人での運用が既に実現されています。こうした取り組みを聴くことで、化学プラントでのリモートオペレーションを考えるうえでの参考にしていただけると思います。

高士
先進的な取り組みを聴くことができるのですね。

野田
リモートオペレーションを導入しようと考えた際、一番懸念されるのはセキュリティや通信の問題です。また、恐らくリモートオペレーションといってもプラントから完全に人がいなくなることはなく、必ずそこには何人か残るでしょう。

たとえば、現在、飛行機の操縦はパイロットと副操縦士の二人で行っています。飛行機の自動化は進んでおり、いずれは完全自動化になるのではないかと思います。しかしたとえそうなったとしても、人間の操縦士がいらないというとことにはならないでしょう。

高士
とてもイメージしやすい実例です。

野田
同様にプラントも現地の人間とシステム、そして遠隔の人間がどのように役割分担し協調しオペレーションしていくかが重要です。しかしその部分については、まだまだ決まった形ができあがっていません。各社暗中模索の状態で、恐らく他社の動向は非常に知りたいところでしょう。

高士
そうした貴重な事例が、今回の会議で共有いただけるのですね。

野田
オペレーションの分野は、プラント異常やセキュリティに関係するため、なかなか中身の話をしていただけないし、聞く機会も限られています。できれは今回の会議では、そのあたりまで踏み込んでお話して欲しいと期待しています。ここがセッション2の注目すべきポイントです。

高士
非常に見どころの多いセッションで皆様からの注目度も高いと思いますが、特にどのような方にご参加いただきたいとお考えでしょうか?

野田
化学メーカーの現場で実際に計装技術者、ケミカルエンジニアとして最前線で働いている方に是非参加していただきたいですね。

急速に技術が進歩する今、それにキャッチアップしていかざるを得ない状況にあります。この会議はその一助として一番ふさわしい場だと思います。会社内からアクセスできるオンライン開催の強みを活かし、是非参加いただき、直接講演者に質問を投げかけ、考えていく機会になればいいですね。

高士
貴重なお話をありがとうございました。

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