旧川崎銀行横浜支店(損保ジャパン日本興亜横浜馬車道ビル)「JMAものづくりポータルコラム」

 旧川崎銀行横浜支店として大正11(1922)年に建てられた。現在は損保ジャパン日本興亜横浜馬車道ビルとしてオフィスビルに生まれ変わっている。馬車道に面して県立歴史博物館の隣にあるビルで、横浜市の認定歴史的建造物。
 横浜・元町生まれで、妻木頼黄の元で仕事をした矢部又吉の設計。矢部は、後で紹介するストロングビル(現ダイワロイネットホテル)の設計者でもある。両方に共通した、ドイツ建築の重厚感が分かる。
 矢部がドイツ・ベルリン工科大学で学んだことから、ここで作ったのはドイツ・ルネサンス風の重厚な外観の建物だったが、平成元(1989)年に老朽化が進んだために、表のデザイン(ファサード)を活かしてビルが改築された。
 改造に際して、ミラーガラスを入れていることから、馬車道の景観保護という観点から、保存と活用という点で、いろいろな議論のきっかけになった建造物でもある。
 
 ■功を奏したミラーガラスの透明感
 そして、さらに2009年、大幅な改築が行われた。上層階にミラーグラスを取り入れたが、これにもいろいろな意見があり、論議のもとになったが、空のブルーと溶け合って、独特の透明感を醸し出している。下層部にファサードをはめ込んでいるが、ガラスの構想部分と一体となって、古いビルにミラーガラス?と違和感を持つ人も多いと思うが、意外としっくりいっているのだ。外から見ても、低層部の落ち着いた意匠と、空を思わせるミラーグラスがふしぎとなじんでいる。
 こういうケースを見ると、さすがにプロの仕事と敬服する。
 
 ドイツ・ルネサンスの、装飾の多い、重みのある建物を保存・復元するにあたってミラーガラスを合わせるという無謀ともいえるような発想は、ほとんど人は、えっ?と思い、違和感をもつはずだ。真逆のような発想で、なかなか思いつかない。それが実にうまく溶け合っていい雰囲気を出しているのだ。人にもよるだろうが、私にはまったく違和感がない。というより、何度も見ているうちに、非常に好もしく思えてくるのだ。
 下層部の川崎銀行時代の建物は、窓の上部にペディメント(ひさしのような三角部)をつけ、左右に突き抜けたローマ時代の付け柱をつけて、しっかりした石積みを主張している。重厚な安定感あふれるデザインは、いかにも銀行としても安心感を醸成している。
 正面入り口の上部の装飾は、カイコの蚕種をモチーフにしたものだろうか。何やら、生糸検査所のモチーフに合わせてデザインされているような感じがある。
 
 復元した部分は、表だけでなく、側面にも生かされていて、1,2階の間で石からミラーガラスにかわっていたりするが、つなぎ分がうまく処理されていて、近くで見ても違和感がまるでない。
 思い切った改装・復元だが、この意外な正反対とも思えるような異質の組み合わせが功を奏していて、平成1年にはこの改装にあたって、建築業協会賞を受賞している。
 歴史的な建造物について、保存・活用という観点から、正面だけでなく、外観意匠のポイントを活かした新しい考え方を実践した先駆的な例として多くの人にぜひ見てほしいビルである。
 

3階建てだったビルを高層ビルにし、上層階の外壁が全面ミラーガラスになった。下層階に使われているもともとの外壁。窓の上に三角形のペディメント(ひさし)を配し、イタリア風の石組みで、落ち着いたたたずまいを見せる。
 

復元した部分は正面だけでなく、側面にも使われており、横を歩いていると、昔のままという感じがする。
 

1階正面入り口のデザイン。正面の2階部分を使った装飾は、蚕種のようなデザインが入れられている。


もともと、側面の入り口に使われたいたものだろう。入口入ったところに空間を設け、復元。階層の様子が見られるようにしている。このスペースをうまく活用してほしい。

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執筆:梶文彦
写真:谷口弘幸

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