旧生糸検査所付属倉庫事務所「JMAものづくりポータルコラム」

いま、北中地区と呼ばれているこの地区には、生糸検査所とともに大正15年(1926年)に建てられた生糸検査所のための倉庫棟が4棟あった。
 正式な会社名は「帝国蚕糸倉庫株式会社」で、文字通り、蚕糸、生糸を保管するための施設であった。それらの倉庫群の商品を管理するための事務所棟として作られたのがこの建物で、コンクリート造りにレンガを張り付けた独特のデザイン。事務所棟なので、最も生糸検査所に近く、規模も小さかった。
 設計は遠藤於莵。横浜市横浜市指定有形文化財である。
 作られた当時は、生糸検査所(現横浜第2合同庁舎)と、帝産倉庫の間にあったが、3棟あった帝産倉庫はすべて解体されてしまい、結局、この事務所棟だけが歴史的な建造物として残され改装され、倉庫跡に作られる商店街を併設したザ・タワー横浜北仲レジデンスと連結通路で結ばれるようになった。

 3階建てで、外装はレンガのように見えるが、鉄筋コンクリートの上に、柱の部分に半分の厚さのレンガをタイルのように張り付けたもので、タイルではなく、レンガ貼りである。柱ではない凹部はコンクリートがむき出しになって、赤いレンガとコンクリートのグレイのコントラストがツートンカラーのような外観のアクセントになっている。
 というよりも、外から見て、出っ張っている部分に赤いレンガが張られているために、その部分の印象は強く、見た人にレンガ造りの建物、という印象を与える。それを狙った意匠と考えれば、これはこれで面白い。

 ■設計は遠藤於莵--鉄筋コンクリートの初期の作品
 大正15年といえば、鉄筋コンクリート造りが実証的にも認められだして、建材として大いに利用され始めた時期である。遠藤於莵も、すでに何棟かの経験を持ち、またレンガ造りの経験も何棟か積んでいる。
 そうした経験をもとに、鉄筋コンクリートづくりの堅牢性という実利面と、赤いレンガという素材の見た目のデザイン面の両方の特長を生かし、いいとこどりしたベテランらしい意匠といえるかもしれない。

 時に遠藤於莵60歳。酸いも甘いもかみ分けた老練なクリエイターである。
 この事務所、倉庫は、生糸検査所用の倉庫とされているが、同時に、帝蚕倉庫株式会社の倉庫としても使われており、平成のはじめまで倉庫業務を行っていた。
 帝産倉庫に収納されていた商品は、輸出。輸入の両方を扱っていた。いずれも値の張る高級品で、この倉庫では、単に一時保管を行うだけでなく、日本の市場に出る前の流通加工、つまり、仕分け・分別・小分け・ラベル張り、梱包などの作業も行われていた。そうした業務を管理するための事務員の詰め所でもあったわけである。

 ■現役事務所としてよみがえる
 長く使用がストップしていた倉庫と別に、この事務所棟は、事務所としては現役で使用されていた。
 現在は、この一帯の地域開発が進行中で、改装で使用されていないが、改装工事が終了すれば、通りを挟んだ向かいには横浜市役所がオープンする。奥に見える建物は、生糸検査所が改築されて作られた横浜第二合同庁舎ある。ザ・タワーに併設される商店街とともに、事務所棟も再びオフィスとして復帰するはずだ。

 桜木町から歩いても5分ほど、向かいの横浜市役所も含めて、この北仲地区が人の往来の一つの核になるはずだ。2019年中には公開される予定。
 

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生糸検査所倉庫事務所。現役事務所として使われてきたが、北仲地区のリニューアルに伴って改装され、新たな事務所として使われるようになった。


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帝産倉庫があった一帯はリニューアルされて地上58階、高さ199.95メートルのザ・タワーができ、通路でつながれた事務所棟として使われるようになった。


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レンガを半分に切り、長辺を表に交互に張り付けた壁面。


・6213.JPG
リニューアルされたが、入り口の上に書かれた「帝産倉庫株式会社」の文字が読める。


・1296.JPG
取り壊されてしまったが、最後まであった帝産倉庫の1棟。鉄筋コンクリートにレンガ貼り3階建て。間口30間(54.54m)、奥行き13間尺(24.24m)。かつてはウイスキーなど高級品が置かれ、ここでラベル張りなどの加工作業も行われていた。


・6220.JPG
ザ・タワーとの間には、旧帝産倉庫のデザインを踏襲した施設も作られ、商店街として多くの人を集めることになろう。

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執筆:梶文彦
写真:谷口弘幸

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